環境対策とオイルミストコレクター
1.はじめに
工作機械の稼働する工場において、作業環境を悪化させる原因の筆頭に挙げられるのがオイルミストである。オイルミストの浮遊は・人体への悪影響・視界の悪化・スリップ事故・工作機械のトラブル・火災の危険など様々なトラブルを引き起こす。
オイルミストを捕集する為のオイルミストコレクターは工場の環境対策の為には無くてはならない存在である。
しかし、ただオイルミストコレクターを設置すれば直ちに環境改善を達成できるわけではない。正しい選定を行うことで初めてその効果が発揮される。
ここでは、弊社の製品概要を踏まえながらオイルミストコレクターの適応と環境対策について述べる。
2.オイルミストコレクターの種類とその概要
オイルミストコレクターにはその捕捉機構により大きく3つのタイプに分けられる。
フィルタ式、静電式、慣性式である。
まず一つ目のフィルタ式について説明する。この方式は装置構成が比較的簡単で、最も世の中に普及している。装置内に複数のフィルタを多段に配置し、大径のオイルミストから順次小径のオイルミストを捕集していく。最終的な捕集効率は最終段にある高性能フィルタ(使い捨て)に依存する為カタログ上の数値比較では各社製品とも性能差は見て取れない事が多い。フィルタ式オイルミストコレクターの性能比較において重要な点は、洗浄再生可能なフィルタ(以下:前段フィルタ)の捕集効率にある。なぜなら、前段フィルタでの捕集効率が高ければ最終フィルタへの負荷を減らすことができ、メンテナンスサイクルの延長及びメンテナンスコストを低減することができるからである。また、前段フィルタにおいては自浄作用、すなわち捕集したオイルミストをドレンとして連続的に排出可能でなければならない。捕集したオイルミストをドレンとして排出できなければ、フィルタはすぐに目詰まりを起し、オイルミストコレクターの吸引力が低下するため、頻繁なフィルタ洗浄が必要となる。
弊社のラインナップではミストイーターS型、F型がフィルタ式オイルミストコレクターに該当する。S型は全て洗浄可能なフィルタで構成されており、F型は最終段に高性能フィルタを装備している。前段フィルタには捕集効率を高めながらドレン排出を安定的に行えるフィルタを開発し装備している(特許取得済み)。
二つ目の静電式について説明する。この方式は静電気の力を利用してオイルミストを捕集する。
装置内に放電部と集塵部を備え、放電部でオイルミストを帯電させ、集塵部では静電気の斥力を利用して集塵極(0V)へオイルミストを付着させ捕集する。静電式オイルミストコレクターにおける捕集性能は、・放電部での放電量・集塵極間の電界強度・極板間の滞留時間に関係する。また、捕集対象となるオイルミストの電気抵抗度、粒子径、濃度によってもその捕集効率は大きく変わる。電気抵抗度が高すぎると粒子は帯電しにくくなり、低すぎると帯電してもすぐに放電してしまい、集塵部で十分な斥力を与えることができず捕集できない。粒子径が小さくなると粒子当りの表面積が小さくなり帯電しにくくなり、大き過ぎると粒子質量に対する表面積の割合が小さくなるので集塵極への移動速度が遅くなり捕集できない。濃度が高くなると粒子数が多くなるので、放電量が十分でないと粒子を帯電できず捕集できない。静電式オイルミストコレクターの捕集性能比較をする場合、放電量(放電部の電流値)と集塵極板間の電界強さ及び通過風速を比較するのが良い。静電式では捕集されたオイルが極板を伝って流れドレンとして排出されるが、固形物が電極に付着すると放電量の減少、電界が弱まるなどして捕集効率が低下する。最終的には異常放電を起こし、オイルミストコレクターとしての機能を失う。
弊社のラインナップではミストイーターE、EXが静電式オイルミストコレクターに該当する。ミストイーターEは放電部と集塵部を一つのセルにした集塵ユニットを直列に2段配置し、捕集効率を高めている。
ミストイーターEZでは集塵極を回転させることで放電量を増加させつつ火花放電を起こさない構造として捕集性能を高めている。また、自動洗浄機能を設けることで長期間高捕集効率を維持することが可能となっている。
三つ目の慣性式について説明する。この方式は最近増えてきたフィルタレスオイルミストコレクターに多く用いられている。例としてバッフル板への衝突、回転物への衝突、遠心力による捕集が挙げられる。慣性力は速度が速いほど大きく働くが、大きな動力を必要とする。一般的には大径のオイルミストの捕集に用いられ、小径のオイルミストの捕集は不得手である。捕集効率を比較する際には、対象となる粒子径が幾らのものであるかを把握する必要がある。また、大抵の場合は捕集のユニットが金属製である為、フィルタ(不織布)に比べて固形物(切粉や大気塵)の保持量が少ないので、再飛散に注意が必要となる。
弊社のラインナップではミストイーターFZ※が慣性式(フィルタレス)オイルミストコレクターに該当する。最終捕集機構に慣性衝突方式の金属製スクリーンを用いている。スクリーンは4段重ねとなっており、1段毎に取り外せて固形物を簡単に除去できるよう配慮している。
※現在、フィルターレスタイプはより高性能なミストイーターZにモデルチェンジしています。
3.要望とその対応
ユーザからの主な要望としては、・メンテナンス周期の延長・廃棄物の削減・高い捕集性能・省エネなどが挙げられる。要望に対して個々のオイルミストコレクターの性能を高めることはもちろん必要であるが、適材適所で機種及び風量を選定することが重要である。
例を挙げる。静電タイプのオイルミストコレクターは小粒径に対して高い捕集効率を有していが、これを捕集効率が高いという理由で、鋳物を水溶性クーラントで加工している工作機械に宛がったとする。以下の内容を静電タイプのオイルミストコレクターに対して検証する。
・水溶性クーラントの加工では1μm以下のオイルミストはほとんど発生しない。
→静電式でなくても十分に捕捉できる
・鋳物を加工するとオイルミストの中にカーボン粉を含んでしまう。
→放電極、集塵極、碍子にカーボンが固着すると絶縁を保てなくなる(異常停止する)
・水溶性クーラントは水分が無くなるとゲル化して高粘度になる。
→電極を流下している間に固着する
以上のように高コスト、メンテナンス周期の短縮という結果を招く。
例の場合では慣性式のオイルミストコレクターを用いれば良い結果を得られる場合が多い。
風量に関しては、過剰な風量を選定して吸わなくてもよいオイルミストも吸込んでしまい、結果メンテナンス周期が短くなってしまうこともある。
全ての条件を把握する事は困難であるが、オイルミストコレクターの長所短所を把握した上での細やかな機種選定が必要である。その為に弊社では、先に述べたように複数種類のオイルミストコレクターをシリーズ化して柔軟に対応している。また、必要に応じてデモ機による運転確認を行うこともある。特に既設のオイルミストコレクターにて捕集がうまくいっていない場合の更新では、標準機での対応は難しい場合があり、複数の捕集機構を組合せた解決策など提案を行っている。
4.効果事例
機種選定を細やかに行うことで効果を挙げた事例を紹介する。
金属線材を連続切削する工作機械にて油性オイルを使用し、大径の飛沫及び大量の油煙が発生していた。当初は海外製の静電式のオイルミストコレクターを使用していたが、油煙を捕集しきることができず、排気を屋外へ排出。しかし、工場の周辺へ住宅が建ち油煙を排気することが困難な状況になった。油煙を確実に捕集し屋内排気とするため、高性能フィルタ付きのフィルタ式オイルミストコレクターへ更新した。更新直後は順調に運転していたフィルタ式オイルミストコレクターであったが、油煙の量が多く高性能フィルタが3~4週間で完全に目詰まりを起した。高性能フィルタの価格を2万円、4週間毎にフィルタを交換するとして計算すると、365(日/年)÷7(日/週)÷4(週)×20,000(円)=260,000(円/年)のランニングコストがかかる。これでは費用も手間もかかり過ぎる。
この例では、捕集対象となるオイルミストが大径ものと油煙の二つを含んでいた為に標準機ではうまく対応できなかったのである。静電式で捕集不足であった理由として二つが考えられた。一つ目はもともとの放電量不足。二つ目は大径オイルミストにより放電極が汚れてしまい放電量が低下した。そこで弊社のミストイーターE(静電式二段セルオイルミストコレクター)にてデモを行った。まず初期性能を確認する為1セルを外して運転すると排気には容易に目視できる程の油煙が漏れ出ていた。2セルをセットするとほとんど目視できない程度に捕捉することに成功。オイルの流動性は高く電極からのドレン回収も良好であった。しかしながら、大径ミストによる放電極の汚れの可能性が高かった為、前段にプレダスタを設置してこれを捕集した。結果、捕集性能を維持したまま半年以上メンテナンスすること無く運転を行うことができた。捕集対象の把握が如何に重要であるかが分かる事例であった。
5.今後の課題、展望
最近では地球環境への関心も高まり、フィルタ廃棄物のないフィルタレスタイプのオイルミストコレクターが注目を集めている。各社ともさまざまなアイデアでより高性能な機種を開発しているが、今のところフィルタ式に比べると捕集効率が低い、同動力で比較すると処理風量が少ないなどの短所がある。フィルタレスを採用したが捕集効率が低く、工場環境が悪化した為、フィルタ式に変更したという話も耳にしたことがある。
国内の工作機械メーカも今は海外輸出物件が大きな割合を占めており、付属するオイルミストコレクターにも海外対応が求められる。フィルタ式の場合、消耗品(フィルタ)の調達にコストがかかり敬遠さえることがままある。フィルタレスタイプであれば基本メンテナンスは海外ユーザにて可能である為、海外向けとしてもその需要は益々高まると考えられる。
弊社においてもフィルタレスタイプのミストイーターFZ※をラインナップしているが、フィルタ式に比べるとまだ捕集効率が低い為、水溶性クーラント専用機としている。今後はこのFZ※シリーズの捕集効率を高めて、フィルタ式と同等以上の性能を発揮するフィルタレスオイルミストコレクターとすることを目指していき、合わせて海外対応も進めていきたいと考えている。
※現在、フィルターレスタイプはより高性能なミストイーターZにモデルチェンジしています。
(『潤滑経済 2012年8月号』に掲載された記事を基に作成)